朝日新聞:仕事欲しさ狙われた ホームレスの今(上)

3月 7th, 2011

2011.3.7 25面【宮城】掲載

天引き多く「ただ働き同然」
1ヶ月の「給与」は4180円。支払明細書を見つめる男性=仙台市青葉区

 「仕事なら紹介するよ」。朝7時、仙台駅構内のベンチにいた男性(41)は、初老の男に声をかけられた。
 3年間勤めていたコンビニで急に給与を減らされ、昨年9月に退職。漫画喫茶やビジネスホテルで過ごしていたが、所持金の30万円は1ヶ月で底を着いた。駅構内に寝泊まりして1週間たっていた。
 「大変な仕事ではないから大丈夫」。一緒に向かったのは、石巻市内の駅から車で数分の建設会社。約120畳の広間に十数人が暮らしていた。
 ところが、話は違った。仕事はビル解体に道路建設。自分で運転し、遠くは秋田、岩手、福島まで行かされる。「スコップの使い方もわからないのか」。現場で怒鳴られ、休日は社長が飼育する鶏や牛の世話もさせられた。
 1ヶ月後。体力の限界で辞めた。駅まで車で送った社長の妻から給料袋を受け取った。去った後に開けると現金わずか4189円。「見習い中」と記された明細書は、基本給10万7500円から食事代や光熱費、世話料など10万3311円が引かれていた。
 「ただ働き同然の扱いを受け、許せない」。男性は怒りをあらわにする。
 仙台市のホームレス支援団体「夜まわりグループ」によると、ホームレスを狙う「手配師」が県内でもうごめいている。
 目立つのは仙台駅周辺。手配師は仕事の話を持ちかけ、業者に仲介し、口利き代を受け取る。業者は道具代や交通費のほか、住居費や食費の名目で給与から差し引く。労働災害があっても何の保障もなく、最後は捨てられる。
 手口は広がっている。関西では、ホームレスに声をかけてアパートに入居させ、生活保護費などをピンハネする「貧困ビジネス」が横行。大阪市から保護費をだまし取ったとして、元NPO法人代表や不動産仲介会社の社員らが昨年5月、大阪府警に逮捕された。
 支援団体によると、仙台市では一昨年7月ごろ、「3食と仕事を提供する」と誘われた男性が青葉区のアパートで生活。生活保護を申請し、支給される11万円のうち9万円を搾取された。七つの銀行で口座を開設し、6台分の携帯電話の契約もさせられた。振り込め詐欺に巻き込まれる恐れもあったという。
 ホームレスから被害相談が時々寄せられるが、表面化するのは一部。「被害者は報復を恐れて告発することもできず、泣き寝入りする例が後を絶たない」からだという。
 夜まわりグループの今井誠二理事長(50)は指摘する。「景気が良く人手不足の時は労働力として囲い、仕事がなくなると追い出す。そんな社会がホームレスを生み出し、追い詰めている」

 景気が回復しつつあるが、県内では仙台市で確認できるだけでも100人を超えるホームレスがいる。就職できない人は後を絶たず、ネットカフェや車内で暮らす人も少なくない。社会はどう支えていけばいいのか。ホームレスのいまを見る。
(上田学が担当します)

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